いよいよ始まる同一労働同一賃金。企業と働く人の取るべき道
男女の別、正規・非正規労働者の区別にかかわらず、同じ職場で、同じ仕事をしている人は同じ賃金を得る−−。
これが「同一労働同一賃金」です。働き方改革法関連法の一つとして大企業では2020年4月、中小企業では2021年4月に施行されます。待ったなしです。企業と働く人は、どう対応すれば良いのでしょうか。
同じ問題は、欧米先進国にもあります。けれど…
この問題は、派遣、パートタイム、期間工など非正規労働者の雇用の不安定さ、正規労働者と非正規労働者の待遇格差、非正規労働者の組織化が進んでいないことから来る労使対話からの排除など、さまざまな分野で影響が広がっています。日本だけの問題ではありません。欧米の先進国でも見られます。
ヨーロッパでは、EU指令が
しかし、ヨーロッパ諸国は、1993年にできたEU(欧州連合、当初6か国。現在は脱退を表明しているイギリス含め28か国)が1990年代から2000年代にかけて出したEU指令が各国に適用され、パートタイム、有期労働者、派遣労働者と社員が同じ仕事をしている場合、1時間あたり賃金を同額払うよう加盟各国に義務づけています。
この結果、見習い訓練生にも法定福利や、社員食堂の利用などの福利厚生の適用を認め、契約社員やパートタイム労働者に、在籍条件に応じて賞与、交通費、退職金などの面で、通常の社員と同程度の待遇が約束されているのが一般的です。一方、配偶者手当、住宅手当などライフスタイルの違いに基づく各種手当ではなく、基本給主体のシンプルな賃金体系になっている点は日本との違いです。厚生労働省がまとめた2016年の統計では、パートタイム労働者の時間当たり賃金はフルタイム労働者の9割(フランス)、8割(同一)といわれます。
アメリカは、法でなく運動で
アメリカは、移民の国です。多民族で形成され、人種差別と、その一方で差別禁止の運動が盛んにおこなわれている国です。1963年には「均等賃金法」、そして1980年代以降「ペイ・エクイティ運動」が活発化し、法律とは別の形で調整を図って来た歴史があります。
ある職場で床の清掃をする職種の労働者がいるとします。仮にその職種の人より時給換算の高いエラい人がサッサッサと掃除してしまったことが見つかるとまずいことになります。訴訟社会ゆえのルールで、差別を受けた、と労働者が不当性を訴えた場合、企業は「差別していない」ことを立証する責任があります。
臨機応変な現実的対策もあります。しかし、雇用機会を奪い「同一労働同一賃金」の原則を破った、として深刻な結果を招くこともある、それが歯止め策になっています。
実は70年以上前から世界標準だった「同一労働同一賃金」
1946年に国際連合の一機関になったILO(世界労働機関)は、その憲章前文で1919年の創設時につくった「同一価値の労働に対する同一報酬の原則」をひきついでいます。第二次大戦後の1951年には「ILO100号条約」(日本は1967年批准)で「同一価値の労働に対して男女労働者に同一の報酬に関する条約」を、1958年には「ILO111号条約」で「雇用及び職業についての差別待遇に関する条約」を採択し、働く現場での平等性をうたいました。
当初は、男女平等を労働の現場に適用し、のちに人種、年齢を問わない「すべての人」に範囲を広げてきた歴史です。
また1948年の世界人権宣言は「すべて人は、いかなる差別をも受けることなく、同等の労働に対し、同等の報酬を受ける権利を有する」(23条)としました。同一労働同一賃金は、70年以上前からの世界標準なのです。
終身雇用という「共同体」に囲い込まれてきた日本の正規労働者
日本で、長い間対策が進んでこなかったのは、この問題が「日本型雇用システム」とガッチリ結びついているためでもありました。
正規労働者は、非正規労働者と労働時間だけが違うだけで、同じ労働をしているように見えますが、日本では違っていたのです。正規労働者は、終身雇用を保証する「企業共同体」の中で「サービス残業をする」とか「日々の本来業務とは異なる研修、懇親会などにも管理職候補としての将来の地位のために参加する」とか、果ては「上司の公私混同にもつきあう」などを当然視する中で生きていて、非正規労働者が区別されるのは当然という空気に支配されていたのです。これが1950、60年代から続く日本型雇用システムでした。賃金も職種別ではなく、企業別であり、労働組合もそうでした。女性労働者は「サラリーマンの夫と専業主婦、子供2人」という昭和モデルの標準世帯の外側で働く人でした。
しかし、劇的に情勢は変わりました
しかし、この10年で劇的に情勢が変わりました。2009年の総選挙で政権を獲得した民主党が、選挙マニフェストで「性別、正規・非正規にかかわらず、同じ職場で同じ仕事をしている人は同じ賃金を得られる均等待遇を実現する」をかかげて政治的に火をつけ、民主党政権は2010年の新成長戦略で実行計画を作りました。2012年に政権を奪いかえした自民党の安倍内閣は2016年、第三次内閣の時「ニッポン一億総活躍プラン」に同一労働同一賃金を明記しました。
非正規社員、女性労働者が増えてきたことが政治の背中を押し
政治の背中を押した背景は、労働力人口の減少に伴う求人倍率の水準の上昇、もっと奥には労働力不足があります。求職者1人に何倍の求人があるか、という有効求人倍率は、2018年12月に1.63倍とバブル期を超える高水準になり、その後も1.6倍近い数字です。
バブル期と異なり、雇いたくても人がいないための人手不足で、労働力人口は2005年をピークに減少に転じ、総務省統計局の統計では、2018年の雇用者(役員を除く)5596万人のうち、正規雇用者は3476万人、非正規は2120万人。正規雇用者の伸び(53万人増)より非正規の伸び(84万人増)が大きくなっているのです。
長命化で労働者全体は高齢化する一方、企業は再雇用の雇用保障はできないので、期間限定の非正規労働者は増えつづけます。すでに実経済では少数派ではなくなった非正規労働者の無視できない塊が政治を背後から突き上げたのです。
法律は、同一労働同一賃金はどう明記したか
「総活躍プラン」を受けて法律の整備がおこなわれ、2018年12月告示で「同一労働同一賃金ガイドライン」が発表されました。2019年7月には、働き方改革関連法が公布、同法によってパートタイム労働法が「パートタイム・有期雇用労働法」と改正され、その施行が迫っているのです。
一気に同一賃金に移行せよ、とまでは言っていませんが
パートタイム・有期雇用労働法は、企業単位で業種と、資本金の額、パート、アルルバイトであっても常時使用する労働者数によって、1年猶予のある中小企業か、大企業に分けて施行日を決めています。
そして、施行時点で、労働者の雇用形態をきちんと調べておく必要があり、そして待遇の状況を確認し、待遇の違いがある場合、その違いの理由を明確にできなければなりません。理由がないなら同じ待遇にすべきだということです。
罰則はありませんが、しかし違法な状態で事業を継続していると、労働者から訴えられる可能性があります。待遇を同じにすると完全に同じ給与体系にしなければならない、とまでは明記していませんが、対策を講じなければなりません。そのあたりを、次のページ以降で。