終身雇用時代 

同一労働同一賃金は、終身雇用時代の終わりを告げる印です

正社員と非正規社員の不合理な待遇格差を禁じる同一労働同一賃金が、日本のあらゆる職場に適用されることは、1人あたり人件費も、人件費総額も増えることを意味します。それだけに注目すると、働く環境が様変わりしていくことを失念してしまうでしょう。2020年はおそらく「日本の終身雇用時代の終わりの始まり」の年と記憶されていくでしょう。

上場会社も非上場会社でも非正規社員の給与は上昇します

中小企業庁の統計によると日本の企業数は358万8000。うち上場会社は、東証、大証で3704(2020年1月9日現在)。雑誌「東洋経済」は、毎年、上場会社の年間給与ランキングを発表していますが、2020年1月発表の3242社のうち上位3社が2000万円を超える一方、最も低い社は260万円。低い方から数えて156社までが400万円未満で、同率200位社から同率500位社までが409〜461万円でした。上位500位と下位500位の間の会社は省かれていますが、多くの会社が全上場会社平均である464万円(40.0歳)に近い給与に集中していることを示唆しています。

上場企業で1万人がリストラ、半数以上の企業が黒字企業、これは…

同一労働同一賃金の施行を念頭に、上場企業も、圧倒的に数の多い非上場会社、中小企業も非正規労働者の給与は、正社員に近づく形で上がります。同一労働同一賃金を見据えて、人材派遣会社が派遣先企業から受け取るスタッフ派遣料金は、一般事務職で平均5〜6%高くなったようです。

一方、同じ2019年に早期の希望退職を実施した上場企業が35社、対象者は1万1351人にのぼりました(東京商工リサーチ調査)。そのリストラを実施した企業の57%が、業績好調の黒字企業だった(日本経済新聞)ことが注目されます。40代後半から50代が中心です。東京商工リサーチによるとリストラが1万人を超えたのは6年ぶり。またリストラの理由について「70歳までの長期雇用を見据えた」「セカンドキャリア支援」などと分析(毎日新聞)しています。

終身雇用制の終わりを告げる印

たまたま時期が一致したわけではありません。戦後の1950、60年代に、戦前の総動員体制を引きずりながら高度成長を背景にして大部分の日本企業で「ヨーイドン」で始まった年功序列の昇級(年功賃金)を前提とした「終身雇用制」がいよいよ歴史的なターニングポイントを迎えたのです。非正規雇用の増加によって終身雇用が終わるのではなく、同一労働同一賃金で非正規雇用者の待遇格差を是正することによって終わりを告げるのです。

優秀な人材の流動化時代に向けて何を考えるか、が人生を分ける

この事態を、リストラされる40代後半から50代が受ける当事者感覚と「上の世代のできごと」としてみる層では受け取り方が違うことでしょう。

しかし若い人でも「黒字でもシニアに近づけばリストラ対象になる」ことを知ったことは「いずれ自分たちも黒字リストラか」と身構える感覚を与えたことは間違いありません。こうして、日本は少子化で若い人材が減るなかで、優秀で若い人材ほど流動化が進み、全体として、終身雇用から、転職を人生に織り込む形で時代は進んでいくのでしょう。「副業の解禁」も合わせれば、人生複線化ともいえます。

複線化人生を描くのか、一つの会社でキャリアを積むのか

公的年金の支給水準の低下、長命化に伴い、働く人生の複線化が進んでいくのを前向きに受け止めるのも、同一労働同一賃金の重要な副産物と言えるのです。

もちろん、一つの企業でキャリアアップを目指す生き方もあります。同一労働同一賃金の先進国、フランスでは、数年前から、年齢が進むと賃金カーブが上がる労働協約を結ぶ動きがあり、企業内でキャリアを形成していこうとする動きです。日本の終身雇用を横目に見た動きとも理解されています。厚生労働省は2021年には「70歳までの就業確保」を企業に努力義務として課す法律を制定する方針です。

同じ企業の中でキャリアアップする企業を目指すのかどうか、は、その企業と働く人が決めることです。そして、人生においてどういうキャリアを目指すのか、は働く人自身の個人の選択に委ねられます。